ピロリ菌とは?
ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)は、酸性の環境でも生息できる細菌で、感染すると慢性胃炎が引き起こされ、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、さらには胃がんや胃MALTリンパ腫の原因になることが分かっています。胃がん患者の約8割はピロリ菌感染が原因とされ、除菌治療によって胃がんの発症を予防できます。胃カメラ検査でピロリ菌関連の疾患が見つかった場合、保険適用で除菌治療が可能です。
ピロリ菌感染の原因
ピロリ菌の感染経路は完全には解明されていませんが、ヒトからヒトへの感染が考えられています。多くは幼少期に感染し、大人になってからの感染は稀です。衛生状態が改善している先進国では感染者が少ないものの、日本では40歳以上を中心に感染率が高く、若年層の感染も珍しくありません。ピロリ菌は歯垢や唾液からも検出されるため、口移しによる母子感染など家庭内での感染も報告されています。
ピロリ菌に感染すると
どんな症状が出る?
ピロリ菌に感染すると、初期には自覚症状がほとんどありませんが、胃の粘膜に炎症が起き、慢性胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍を引き起こすことがあります。さらに長期間にわたって感染が続くと、胃がんのリスクが高まることも知られています。胃痛や不快感、胃もたれ、吐き気、食欲不振などの症状が現れることもあり、こうした症状が続く場合は検査をおすすめします。ピロリ菌は除菌治療で取り除くことが可能で、感染を早期に発見し除菌することで、将来的なリスクを減らすことが期待できます。
ピロリ菌と関係する病気
ピロリ菌は幼少期に感染し、除菌治療を行わない限り胃に生息し続けます。感染期間が長くなると、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、慢性萎縮性胃炎、胃がんなどのリスクが増加します。
急性胃炎
ピロリ菌が胃に感染すると、まず急性胃炎を引き起こすことがあります。急性胃炎は、ピロリ菌が胃の粘膜を刺激し、炎症や不快感、胃痛、吐き気などの症状を生じる病気です。多くの場合、急性胃炎は一時的なもので、症状が軽減することもありますが、ピロリ菌が長期間にわたり感染したままだと、慢性胃炎や胃潰瘍、さらには胃がんのリスクが高まるため、早期の診断と治療が重要です。
慢性胃炎、萎縮性胃炎
ピロリ菌が長期間感染すると、急性胃炎から慢性胃炎に進行することがあります。慢性胃炎は、胃粘膜に持続的な炎症が生じ、繰り返し症状が現れる状態です。さらに感染が続くと、胃粘膜が徐々に薄くなる「萎縮性胃炎」へと進行し、胃酸分泌の低下や消化吸収能力の減少を引き起こします。萎縮性胃炎は胃がんのリスクも高まるため、ピロリ菌が検出された場合は除菌治療が推奨されます。適切な治療で進行を防ぐことが重要です。
胃がん
萎縮性胃炎を放置すると、胃粘膜が腸上皮化生という状態になり、その一部が胃がんに進展することがあります。実際に胃がん患者のほとんどがピロリ菌に感染しているというデータもあります。
機能性ディスペプシア
機能性ディスペプシアは、血液検査・内視鏡検査・CT検査・超音波(エコー)検査などでは異常が見られないにも関わらず、胃もたれや胃の痛みなどの症状が続く病気です。消化器系の疾患のうち、現在もっとも頻度の高い疾患の一つです。
特発性血小板減少性紫斑病
免疫抗体の異常により、自己免疫が自身の健常な血小板を攻撃してしまうようになり、血小板が減ることで皮下出血による紫斑や外部出血がおこりやすくなります。発症の引き金は不明ですが、ピロリ菌感染との関連性が指摘されています。
胃マルトリンパ腫
胃マルトリンパ腫は、粘膜関連リンパ組織に発生する低悪性度のリンパ腫で、通常は自覚症状がほとんどなく、内視鏡検査で発見されることが多いです。生命を即座に脅かす疾患ではありませんが、悪性リンパ腫に進行する可能性もあるため注意が必要です。発生原因の約9割はピロリ菌感染と関係しているとされています。
胃過形成性ポリープ
過形成性ポリープは、ピロリ菌感染による萎縮性胃炎のある胃に発生しやすく、大きさも発生数も様々で、出血やびらんが見られることもあります。除菌治療で縮小・消失することもありますが、稀にがん化するため、除菌後も年1回の内視鏡検査が推奨されています。
ピロリ菌の検査方法
ピロリ菌の検査は、胃カメラを使用する検査方法と、胃カメラを使用しない検査方法に分けられます。
胃カメラを使用する
検査方法
核酸増幅法
胃の内視鏡廃液を利用した、高感度遺伝子診断法(PCR)によってピロリ菌がいるかどうか調べます。結果は検査終了後、約1時間程度で分かるため、陽性の場合は即座に除菌治療を開始できます。また、除菌治療に使用する抗菌薬が効きやすい菌かそうでないかを確かめることができるメリットもあります。
迅速ウレアーゼ試験
ピロリ菌が分泌するウレアーゼ酵素は、尿素をアンモニアに分解します。この特性を利用したのが迅速ウレアーゼ試験です。この試験では、胃カメラで採取した胃粘膜を尿素とpH指示薬を含む反応液に入れ、ピロリ菌の有無を判断します。結果は当日中に分かるため、陽性の場合は即座に除菌治療を開始できます。
※現在、当クリニックでは行っておりません。
培養法
胃カメラで採取した胃粘膜組織を、ピロリ菌の増殖に適した環境で培養し、5~7日後にピロリ菌の有無を判定します。
鏡検法
胃カメラで採取した胃粘膜の組織を顕微鏡で観察し、ピロリ菌の有無を確認します。
胃カメラを使用しない検査方法
尿素呼気テスト
空腹時に特殊な検査薬を飲み、呼気を採取して検査を行います。この方法では、ピロリ菌のウレアーゼによって生成される二酸化炭素(CO2)の量を測定します。
血中ヘリコバクター・ピロリ菌抗体検査
血液中のピロリ菌に対する抗体の有無を調べる検査で、菌量が少ない場合にも有効です。ただし、小児や感染直後は陽性にならないことがあり、除菌成功後もすぐには陰性にならず、陽性状態が長期間続くことがあります。
便中ピロリ抗原検査
便中のピロリ菌抗原を調べる方法で、負担が少なく、小児でも検査が可能です。この検査は感染診断や除菌判定において信頼性が高く、食事の影響を受けずに実施できます。
ピロリ菌の除菌(治療方法)
抗生物質(2種類)と胃酸を抑える薬(酸分泌抑制薬)を1週間服用します。初回治療ではアモキシシリンとクラリスロマイシンを使用しますが、薬剤アレルギーがある方や初回治療が成功しなかった方は、抗生剤の種類や治療期間を変更します。新たに発売された酸分泌抑制薬を用いた除菌治療の成功率は、一次除菌・二次除菌ともに約90%であり、ほとんどのピロリ菌感染症が二次除菌までに除菌可能です。
保険適応の対象
ピロリ菌感染検査や治療は、消化性潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少症、早期胃がん内視鏡治療後、またはヘリコバクター・ピロリ菌感染による慢性胃炎の方に保険適用です。ただし、慢性胃炎の場合は内視鏡検査で胃炎が証明され、各種検査などでピロリ菌の存在が確認される必要があります。詳しくはご相談ください。
よくある質問
ピロリ菌の主な感染経路は何ですか?
ピロリ菌の主な感染経路は、幼少期に汚染された水や食べ物を介して感染する経口感染が多いとされています。衛生環境が整っていない地域では感染リスクが高まります。
ピロリ菌は性交渉でもうつりますか?
ピロリ菌は主に口から口への接触で感染すると考えられており、性交渉による感染のリスクは非常に低いです。
ピロリ菌は食べ物の共有でうつりますか?
食器や食べ物の共有などで口を介して感染することがあります。特に幼少期に家族内で感染が広がることが多いとされています。
ピロリ菌は大人になってからキスで感染しますか?
ピロリ菌は主に幼少期に家庭内で感染することが多く、大人同士のキスで感染することはほとんどありません。ただし、非常に稀なケースで唾液を介して感染する可能性もあるため、感染のリスクを完全に否定することはできません。
ピロリ菌とストレスは関係ありますか?
ストレス自体がピロリ菌の感染原因ではありませんが、ストレスが胃酸分泌や胃の状態に悪影響を与え、ピロリ菌による胃炎や潰瘍を悪化させる可能性があります。
ピロリ菌に悪い食べ物はありますか?
ピロリ菌に直接悪影響を与える特定の食べ物はありませんが、脂肪分の多い食事や刺激の強い食べ物は胃に負担をかけ、症状を悪化させることがあります。
ピロリ菌は再発しますか?
一度除菌に成功すれば、再感染の可能性は低いですが、まれに除菌が不完全で再発することがあります。再感染を防ぐために、定期的な検査が推奨されます。
ピロリ菌は自然に消えることがありますか?
ピロリ菌は自然に消えることはほとんどなく、治療を行わなければ長期間胃に留まることが多いです。ピロリ菌は胃がんや胃潰瘍の原因になるため、感染が確認された場合は除菌治療を行うことが推奨されます。