- 酸っぱいものがこみあげる「逆流性食道炎」
- 逆流性食道炎の症状
- 逆流性食道炎の原因はストレス?
- 日本人の10人に1人がかかる「食道裂孔ヘルニア」
- 食道裂孔ヘルニアの症状
- 食道裂孔ヘルニアの原因
- 逆流性食道炎・食道裂孔ヘルニアの検査
- 逆流性食道炎・食道裂孔ヘルニアの治療
- 逆流性食道炎・食道裂孔ヘルニアは癌化する?
- 逆流性食道炎を自力で治すには
- 逆流性食道炎でやってはいけないこと
- 筋トレで食道裂孔ヘルニアの症状を改善!
酸っぱいものがこみあげる「逆流性食道炎」
逆流性食道炎とは、胃に留まっているはずの胃酸が食道へ逆流することで、食道粘膜に炎症を引き起こす病気です。加齢に伴う下部食道括約筋の緩みが原因と考えられており、主に中高年や高齢者に多く見受けられます。
対応が遅れると食道粘膜の炎症が悪化し、出血、貧血、食欲不振といった支障を来すため、早期に適切な治療を受けることが大事です。
逆流性食道炎の症状
主に、以下の症状が見受けられます。

- 胸やけ
- みぞおちの痛み
- 酸っぱい感覚が口の中に広がる
- 食後の胸やけ、吐き気
- 起床時の声枯れ、喉の痛み
など
逆流性食道炎の原因はストレス?
主に下部食道括約筋の緩みによって発症すると考えられています。
他にはストレスによる自律神経の乱れ・睡眠不足・不規則な生活リズム、早食い、過食、肥満により過度な胃酸分泌が生じることでも発症します。
日本人の10人に1人がかかる「食道裂孔ヘルニア」
食道裂孔ヘルニアを一言で表すと「胃の一部が胸側へ飛び出す病気」です。通常であれば胃と胸は、横隔膜という膜状の筋肉によって空間を隔てられています。また横隔膜には食道が通る穴(食道裂孔)があり、食道専用の通路です。しかし複数の原因により食道裂孔が広がると、その穴を介して胃が胸側へと出てきてしまい、食道裂孔ヘルニアの症状が現れるのです。
先天的な器質異常のほか、加齢、肥満、腹圧がかかる疾患がある場合に発症リスクが高まります。
食道裂孔ヘルニアの症状
- 胸やけ
- 食べ物がつかえる感覚
- 胸の痛み
- 吐き気
- 胃酸による声枯れ、喉の痛み
など
食道裂孔ヘルニアの原因
先天的に食道裂孔が大きいことや加齢に伴い裂孔が広がってしまうなどの器質性変化に加えて、肥満や妊娠などによって腹圧がかかることが原因と考えられています。通常なら横隔膜によって胸と胃は隔てられているのですが、横隔膜にある食道裂孔(食道が通るための穴)の幅が広がっているため腹圧がかかると、胃が胸の方へ押し出されてしまうのです。
逆流性食道炎・食道裂孔ヘルニアの検査
内視鏡検査
胃カメラを使用して、食道、胃、十二指腸の内部を直接観察します。
逆流性食道炎の場合
食道の炎症や、食道下部の損傷(びらん、潰瘍)を確認します。炎症があればその程度(Grade A~D)を評価します。
食道裂孔ヘルニアの場合
食道裂孔ヘルニアがあるか、胃の一部が横隔膜を越えて食道側に移動しているかを観察します。
X線検査(バリウム検査)
バリウムという造影剤を飲んだ後、X線撮影を行い、食道や胃の形態や動きを確認します。
逆流性食道炎の場合
胃酸の逆流や、食道の運動機能の異常があるかどうかを確認します。バリウムが逆流している様子が確認されることがあります。
食道裂孔ヘルニアの場合
胃の一部が食道側に突出しているかどうかを確認します。ヘルニアの大きさや位置を評価することができます。
24時間pHモニタリング
食道内のpH(酸度)を24時間測定する検査です。小さなカテーテルを鼻から挿入し、食道内に胃酸が逆流しているかどうかを測定します。
逆流性食道炎の場合
胃酸の逆流がどれほど頻繁に起こっているか、どの程度食道に影響を与えているかを確認します。この検査は、逆流性食道炎の診断に非常に有効です。
食道裂孔ヘルニアの場合
この検査は逆流性食道炎の有無を確認するために行います。裂孔ヘルニア自体の診断には使用されませんが、逆流性食道炎がヘルニアによって悪化しているかを評価します。
食道内圧測定検査(マノメトリー)
概要: 食道の運動機能を測定し、食道下部括約筋(LES)の圧力や食道の収縮力を評価します。
逆流性食道炎の場合
食道の運動が正常に行われているか、食道下部括約筋の締まり具合が弱くなっていないかを確認します。逆流が起こりやすい食道の筋肉の機能低下が見つかることがあります。
食道裂孔ヘルニアの場合
食道の運動機能が低下しているか、括約筋の圧力が低い場合、裂孔ヘルニアの影響を評価するために用います。
CT検査
食道の運動機能が低下しているか、括約筋の圧力が低い場合、裂孔ヘルニアの影響を評価するために用います。
逆流性食道炎の場合
一般的にはあまり使用されませんが、逆流が複雑な場合や他の問題を疑う場合に行われることがあります。
食道裂孔ヘルニアの場合
一般的にはあまり使用されませんが、逆流が複雑な場合や他の問題を疑う場合に行われることがあります。
食道運動機能検査(シンチグラム)
概要: 飲み込んだ食べ物や液体がどのように食道を通って胃に入るかを観察する検査です。主に食道運動の異常を確認します。
逆流性食道炎の場合
食道の運動機能が正常かどうかを評価し、食道の蠕動運動が逆流を防ぐために機能しているかを確認します。
食道裂孔ヘルニアの場合
胃と食道の接合部がどのように機能しているかを確認し、逆流や食道運動障害があるかを確認します。
逆流性食道炎・食道裂孔ヘルニアの治療
逆流性食道炎と食道裂孔ヘルニアは、いずれも胃酸が食道に逆流することで引き起こされるため、治療法が似ています。これらの疾患では、まず症状を軽減し、逆流を防ぐために生活習慣を見直し、薬物療法を行うことが一般的です。症状が重い場合や薬物療法が効果を示さない場合は、手術が考慮されます。
生活習慣の改善
治療の基本は、胃酸の逆流を防ぐための生活習慣の改善です。これには以下のような方法が含まれます。
食事の工夫
少量を複数回に分けて食べ、食後すぐに横になるのを避けることが重要です。また、脂肪分が多い食事、酸味が強い食べ物、カフェインやアルコールを避けることが推奨されます。
体重管理
肥満は胃酸逆流を悪化させるため、適切な体重を維持することが大切です。
睡眠時の工夫
枕を高くして寝ることで、胃酸の逆流を防ぎ、夜間の症状を緩和します。
薬物療法
薬物療法は、逆流性食道炎や食道裂孔ヘルニアの治療において中心的な役割を果たします。これらの疾患に対して使われる薬は以下の通りです。
プロトンポンプ阻害薬(PPI)
胃酸の分泌を強力に抑える薬で、逆流による炎症を軽減します。一般的には長期間使用することが多く、オメプラゾールやランソプラゾールなどが処方されます。
ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)
胃酸の分泌を抑える作用があり、短期間の使用や軽症の患者に適しています。
制酸薬
胃酸を一時的に中和し、胸やけなどの症状を緩和します。即効性がありますが、持続時間が短いため補助的に使用されます。
消化管運動改善薬
食道下部括約筋の圧力を高め、胃内容物の排出を促進することで逆流を防ぎます。
外科的治療
薬物療法や生活習慣の改善で症状が改善しない場合、手術が考慮されます。特に食道裂孔ヘルニアが重度の場合や、逆流性食道炎が慢性的に悪化している場合に推奨される治療法です。
腹腔鏡下噴門形成術(Nissen術)
最も一般的な手術法で、胃の上部を食道の周りに巻きつけ、逆流を防ぐためのバリアを作ります。これにより、胃酸の逆流を効果的に抑制できます。
ヘルニア修復術
食道裂孔ヘルニアの場合、ヘルニアの部分を修復し、胃が胸腔内に突出しないようにする手術が行われます。まれにメッシュを用いて横隔膜を補強することもあります。
手術後のケアとフォローアップ
手術後も再発を防ぐために、引き続き生活習慣の改善や食事管理が必要です。術後の回復をサポートするため、定期的な診察やフォローアップが行われます。
逆流性食道炎・食道裂孔ヘルニアは癌化する?
逆流性食道炎や食道裂孔ヘルニアが癌化するかどうかは、多くの患者さんが不安に思うポイントです。これらの疾患が直接的に癌を引き起こすわけではありませんが、特定の条件下では癌に発展するリスクがあることが知られています。ここでは、癌化のリスクやその原因について詳しく解説します。
逆流性食道炎と癌化の関係
逆流性食道炎そのものは、直接癌を引き起こすわけではありません。しかし、長期間にわたって胃酸の逆流が続くと、食道の粘膜が炎症を繰り返し、やがてバレット食道という状態に進行することがあります。バレット食道は、正常な食道の粘膜が胃粘膜に似た構造に変化する状態であり、これが発展すると食道腺癌のリスクが高まります。
バレット食道
逆流性食道炎が慢性的に続いた場合に見られる状態。胃酸による食道の損傷が重なり、粘膜が異常に変化することで、癌の前段階となることがあります。
食道腺癌
バレット食道から進行することが多く、逆流性食道炎患者では定期的な内視鏡検査が推奨されます。
食道裂孔ヘルニアと癌化の関係
食道裂孔ヘルニア自体が直接的に癌を引き起こすことはほとんどありません。ただし、食道裂孔ヘルニアが原因で胃酸が食道に逆流しやすくなり、その結果として逆流性食道炎を引き起こす場合があります。つまり、間接的に逆流性食道炎が長引くことで、バレット食道や食道腺癌のリスクが増加することがあるのです。
食道裂孔ヘルニア
胃の一部が横隔膜を通って食道の方に移動することで胃酸の逆流が増え、逆流性食道炎を引き起こすリスクが高まります。
逆流性食道炎を自力で治すには
自力で逆流性食道炎を改善するためには、生活習慣の見直しが重要です。ここでは、自己管理で逆流性食道炎を和らげる方法について説明します。
食生活の改善
逆流性食道炎の主な原因は、胃酸が過剰に分泌されることや、胃の内容物が食道に逆流することです。食事の見直しで胃酸の分泌を抑えることができます。
少量頻回の食事
一度に大量に食べると胃に負担がかかり、逆流を引き起こしやすくなります。食事は少量を頻回に取るよう心掛けましょう。
脂っこい食事や酸味の強い食品を避ける
揚げ物や脂肪分の多い食事、柑橘類やトマトなどの酸性食品は、胃酸の逆流を引き起こしやすいので避けましょう。
カフェインやアルコールを控える
コーヒーや紅茶、チョコレート、アルコールは胃酸分泌を促進するため、控えると症状の改善が期待できます。
食後すぐに横にならない
食後2~3時間は横にならず、消化が進むまで座ったり、立って過ごすことが大切です。
生活習慣の見直し
日常生活の中でも、逆流を引き起こす要因を減らすことが大切です。
就寝時の姿勢改善
頭を高くして寝ると、重力の作用で胃酸の逆流を防ぐことができます。ベッドの頭側を少し高くするか、専用の枕を使ってみましょう。
喫煙を控える
タバコに含まれるニコチンは、食道下部の括約筋(LES)を緩め、逆流を引き起こしやすくします。禁煙は症状改善に大きく寄与します。
ストレス管理
ストレスは胃酸の過剰分泌を促進し、逆流性食道炎を悪化させることがあります。ヨガや深呼吸、趣味の時間を持つなど、ストレスを軽減する工夫をしてみましょう。
適正体重を維持する
肥満は逆流性食道炎の大きなリスク要因です。体重が増えると腹部への圧力が高まり、胃酸が食道に逆流しやすくなります。食事と運動を組み合わせて、無理のない体重管理を行いましょう。特にお腹周りの脂肪が減ると、逆流症状が軽減することがあります。
服装の工夫
タイトな服やベルトが胃を圧迫し、逆流を引き起こすことがあります。できるだけ、ゆったりとした服装を選ぶことも重要です。
定期的な運動
軽い有酸素運動を日常生活に取り入れることで、消化を促進し、胃酸逆流のリスクを減らすことができます。ウォーキングやストレッチ、軽いジョギングなどがおすすめです。
薬に頼らない工夫
市販の制酸剤や胃酸を抑える薬を使う前に、まずは生活習慣を改善して自然に症状を軽減することを目指しましょう。もし症状が続く場合や強い症状がある場合は、医師に相談することが必要です。
逆流性食道炎でやってはいけないこと
症状を悪化させる行動を避けることが、早期の改善や悪化防止に役立ちます。ここでは、逆流性食道炎を悪化させる「やってはいけないこと」をご紹介します。
食後すぐに横になる
食後すぐに横になると、胃の内容物が食道に逆流しやすくなります。特に満腹時は、横になることで胃酸が逆流しやすくなるため、食後2〜3時間は横にならないように心がけましょう。
食べ過ぎ・一度に大量の食事を取る
一度に大量の食事を取ると、胃に負担がかかり、逆流のリスクが高まります。胃がいっぱいになることで、胃酸が食道に押し戻される可能性があるため、少量を頻回に食べることを心がけてください。
脂肪分の多い食事を取る
脂肪分の多い食べ物は消化に時間がかかり、胃酸の逆流を引き起こす原因になります。特に、揚げ物やバター、クリームを多く使った料理は避け、消化に優しい食事を選びましょう。
アルコールやカフェインの過剰摂取
アルコールやカフェインを含む飲み物(コーヒー、紅茶、エナジードリンク)は、食道下部の括約筋(LES)を緩める働きがあり、胃酸が逆流しやすくなります。これらの摂取を控えるか、量を減らすことが推奨されます。
酸性食品の摂取
柑橘類、トマト、スパイシーな食品などの酸性食品は、胃酸の分泌を促進するため、逆流性食道炎を悪化させることがあります。これらの食品は避けるか、少量に抑えるようにしましょう。
喫煙
タバコに含まれるニコチンは、食道下部の括約筋を緩めるため、胃酸の逆流を引き起こしやすくなります。逆流性食道炎を防ぐためには、禁煙が重要な対策の一つです。
きつい服装やベルトを締める
ウエストを締め付ける服装や、タイトなベルトを使うと、腹部に圧力がかかり、胃酸の逆流を引き起こしやすくなります。リラックスした服装を心がけ、腹部の圧迫を避けましょう。
ストレスをため込む
ストレスは胃酸の分泌を増やし、逆流性食道炎を悪化させる要因となります。適度な運動やリラックス法(ヨガ、瞑想など)を取り入れて、ストレスをコントロールすることが大切です。
遅い時間に食事を取る
夜遅くに食事をすると、消化が進まずに逆流が起こりやすくなります。特に寝る前の2〜3時間は食事を控えることで、症状の悪化を防ぐことができます。
寝る時に平らに寝る
平らに寝ると胃酸が逆流しやすくなります。逆流性食道炎がある場合は、寝る際に頭を少し高くするか、ベッドの頭側を高くすることで、胃酸の逆流を防ぐことができます。
筋トレで食道裂孔ヘルニアの症状を改善!
筋力トレーニングは、腹部の筋肉を強化し、腹圧を適切に保つのに役立ちます。腹圧のコントロールは、ヘルニアが悪化する原因の一つである過度な腹圧を防ぐために重要です。さらに、姿勢の改善にもつながり、逆流のリスクを軽減します。
横隔膜の強化
横隔膜を鍛えることで、食道裂孔を通る部分の筋肉をサポートし、胃が胸部に押し上げられるのを防ぐことができます。横隔膜呼吸の練習を取り入れることで、自然な形で呼吸をしながら横隔膜を強化できます。
横隔膜呼吸の方法
Step1.椅子に座り、背筋を伸ばします。
Step2.手を腹部に置き、鼻からゆっくり息を吸い、腹部が膨らむのを感じます。
Step3.口からゆっくり息を吐きながら、腹部を引き締めます。
Step4.これを1日数回繰り返すことで、横隔膜を鍛えることができます。
腹筋の強化
腹筋を鍛えることで、腹部全体の安定性が向上し、胃や食道への過剰な圧力を防ぐことができます。ただし、過度な腹圧をかける運動は避けるべきです。例えば、クランチやレッグレイズは避け、代わりに腹斜筋を意識したプランクが効果的です。
プランクの方法
Step1.腕立て伏せの姿勢をとり、肘を肩の真下に置きます。
Step2.つま先で体を支え、体全体を一直線に保ちます。
Step3.30秒から1分間維持し、徐々に時間を増やしていきます。
姿勢改善のための背筋トレーニング
姿勢が悪いと、胃の位置が不安定になり、逆流や胸やけが悪化することがあります。背筋を鍛えることで、自然な姿勢を保ち、胃の圧迫を減少させることができます。
背筋を鍛えるエクササイズ
Step1.仰向けに寝て、膝を曲げ、足を床に置きます。
Step2.お尻をゆっくり持ち上げ、肩から膝までが一直線になるようにします。
Step3.5秒間キープし、ゆっくり元に戻します。これを10〜15回繰り返します。
筋トレを続ける際の注意点
食道裂孔ヘルニアを改善するための筋トレは、無理なく行うことが重要です。特に、過度な腹圧をかける運動や重い重量を使ったトレーニングは避け、体に負担をかけすぎないように注意しましょう。症状がひどくなる場合や、新たな不快感を感じた場合は、トレーニングを中止し、医師に相談してください。